曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

やさしい言葉 []

三重 桐丘寺 大橋裕雪 師 

ある会社が敬老の日に、高齢者の方々にこんなアンケートをしたそうです。
「敬老の日に何が欲しいですか?」するとほとんどの方々が「物とかお金とかはいらない、やさしい言葉がほしい」と答えられたそうです。

仏教では 愛語 という言葉があります。人と接する時に、愛に満ちた優しい言葉のみを使い、乱暴な言葉や憎む言葉を使わない、という教えです。道元はこのように言っています。「愛語というのは、他人と接するときに、まず慈しみ愛する心を起こし、優しい心のこもった言葉を投げかけることが大切である。他人に対して、母親が自分の赤ん坊に対するのと同じように、ただその成長と幸せを願って言葉をかけるのが愛語である」
優しい心のこもった愛語を家庭や職場で、常に使いたいものです。この「愛語」というのは、必ずしも声に出す言葉だけではなく、慈しみのこもった表情や態度も含みます。
禅僧で人々に慕われた良寛さんには、こんな話があります。良寛さんの甥に馬之助という人がいました。彼は仕事もせずに遊びほうけていました。そこで親は、良寛さんに馬之助を叱ってもらおうと考えました。良寛さんは、頼まれて馬之助の家に一週間滞在したのですが、その間、一度も馬之助を叱りませんでしたし、説教もしませんでした。いよいよ良寛さんは帰ることになり、馬之助にワラジのひもを結んでくれるように頼みました。馬之助がワラジのひもを結んでいると、馬之助の首筋に冷たいものが落ちてきました。馬之助が見上げると、そこには慈愛に満ちた表情で、涙を一杯ためた良寛さんの顔がありました。それを見た馬之助は、その後、遊びをやめ、生まれ変わったように仕事に精を出すようになりました。

 良寛さんは言葉こそ発しませんでしたが、慈愛の心のこもった表情が馬之助に伝わり、馬之助の心を変えさせたのです。これぞ「愛語」です。
「高齢者には優しい言葉を」とよく言いますが、その根底には優しい気持ちが欲しいですね。その気持ちがあれば、自然と優しい言葉が生まれます。

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