曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

三吉の心 []

愛知 良参寺 杉浦聡竜 師 

私が住職を務めさせて頂いているお寺には、江戸時代の千石船、宝順丸乗組員十四名の供養塔が建立されています。十四名の中に音吉、久吉、岩吉という名前に「吉」という文字が入った三人の船乗りが含まれており、「三吉」とも呼ばれています。本日は三吉についてのお話をさせて頂きます。
宝順丸は江戸へ向かう途中、嵐に遭い十四ヵ月もの太平洋漂流の末、音吉、久吉、岩吉の三人だけが生き残りアメリカ西海岸へと漂着します。その後、三人はイギリス経由でマカオへと送られた際に、聖書の和訳に協力した事で歴史に名を残した郷土の偉人なのですが、私が強く印象に残っているのは、その後の三吉達の行動です。
 彼らは突然の漂流から三年以上の時を経て、アメリカの船モリソン号の協力のもと日本へと戻るチャンスを得ますが、当時鎖国中の日本へ誤った手順を踏んでの帰国を試みてしまったが為に、祖国からの砲撃を受ける事となり、日本への帰国は叶いませんでした。
しかし、日本へと帰る事が許されず、絶望的な気持ちになったであろう中、三吉達は、今後同じ思いを他の日本人漂流民達には決して味あわせぬよう、と異国の地から漂流民を救済する事を決意し、日本送還の手助けを行い続けたと記録に残されています。

仏教には自分の幸せよりもまず自分以外の全てのものの幸せを願い、自分のできる事を精一杯行いなさい、という「利他行」という教えがあります。
漂流民の苦労を一番理解していたからこそ、その気持ちに寄り添い、自分達の持っている知識を惜しみなく分け与え、手を差し伸べ続ける。自分達自身の帰国が叶わなかった状況下でも精一杯に。三吉達の生き方は正に「利他」の心に満ち溢れたものであった、と思います。
国内外の状勢は変わらず慌ただしく、自分の事ばかりでいっぱいいっぱいになってしまいがちな世の中です。江戸時代を生きた先人達のお心を手本に、まず自分よりも他の人々の幸せを願い、行動できる私たちでありたいと思います。

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