曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

利行の看板 []

三重 光徳寺 大島慶之 師 

 先日、お墓のお引越しに携わりました。依頼主は幼い頃にお母さまを亡くされており、ご縁があって私の住んでいる地域の墓地に、お墓を建ててご供養されていました。しかし、遠方に住んでいることもあり、満足にお墓に足を運ぶことができていなかったため、この度、お母さまの生まれ故郷にお墓を移すことになりました。
 お墓のお引越しを終えてすぐ、依頼主が訪ねてこられました。お礼を述べに来られたわけですが、その手には、小さな看板が握られています。その看板には、新しいお墓の住所と、簡単な地図が記されていました。確認するような口ぶりで「この看板を、お墓があった元の場所に建てても良いでしょうか」と、尋ねられたのです。なんと優しい気配りだろうかと、心から感心しました。お墓のお引っ越しを知らない方、たとえば、お母さまのご友人がお墓参りに来られた時に困らないようにという、細やかな心配りです。
 道元禅師様は「利行」という教えを説かれています。利行とは、分け隔てをすることなく、すべての衆生に利益を与えることです。また、自分の利益と他者の利益を別のものとして考えるのではなく、他者を思いやることが、自分を利することになるとも説かれています。
 会ったことのない誰かを思い、いつか訪れるかもしれない未来のために、心を込めて看板を作った行いこそ、利行の実践に他なりません。
 年の瀬も迫りつつある師走の最中、忙しい日々をお過ごしのことと存じますが、思いやりをもって周りの人に接することができているかどうか、この機会に振り返ってみてはいかがでしょうか。

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