四月は新入社員の季節です。信号待ちで停車していたとき、研修資料を持った新入社員の一団が横断しました。皆、明るい顔をしていました。
その人たちに向かって私は「困難なことがあっても乗り越えて行ってね」と心の中でつぶやきました。
なぜ、そのようにつぶやいたのかというと、会社を辞めたいと悩んでいる青年につい最近、出会ったからです。長時間労働による過労死やハラスメントを受けて心が病むのであれば転職したほうがよいと私は思っています。そのような立場から、青年に職業に対する気持ちをつぎのように聞きました。
「今の職業を選んだのは高収入を得るためですか? 皆から羨ましがられる職種だったからですか?」と聞きました。 青年はふたつとも否定しました。
人々が毎日それに従事し社会とつながり、生計を維持する活動が職業です。しかし生計を維持する点のみに重きを置き、意に沿わない職業に一生従事できるでしょうか。
できないと思います。
職業選択に制限があった江戸時代の人々はどのように考えていたのでしょう。
自分に与えられた職業に対して、自分自身が納得できる価値観を江戸時代の人々も求めていました。
その答えを与えたのが江戸時代初期に現れた鈴木正三でした。
鈴木正三が武士の身分を捨てて僧侶となったのは職種を変えたのではなく、真実の生き方を見つけるためでした。
それと同じように、職業に就く本当の目的は金銭を稼ぐためでもなく、人から褒められるためでもありません。職業を通して、人としての完成を目指すことが勤労の意味であると鈴木正三は言いました。
会社を辞めたいと悩んでいた青年が踏みとどまったとしても、または転職したとしても、みずから就いた職業を通して、人としての完成を目指してほしいと思いました。
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