曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)
たのしみ法話
たのしみ法話

眼を細める []

三重 四天王寺 倉島隆行 師 

今年の夏は大変暑く、お盆の棚経も「毎日暑いですね〜!」が挨拶になっていました。強い日差しの中、流れる汗を拭い、照りつける日差しを手で遮りながら歩いていると眼横鼻直「がんのうびちょく」という道元禅師が説かれた言葉が頭を過りました。
眼横鼻直(がんのうびちょく)とは、中国での修行を終えて帰国された道元禅師に向かって「あなたは修行して何を学ばれたのですか?」という質問に「眼は横に鼻は縦についていることがわかった」と言われた逸話です。当時、中国での仏教留学を果たした僧侶は、貴重な仏像や文献・経典などを土産に持ち帰るのが習いでした。ところが道元禅師は、「眼横鼻直 空手還郷」とだけ言い、 「眼は横に、鼻は縦についているということを学んできました。それ以外に得てきたものは何もありません」と答えたのです。それを聞いた人々はきっと落胆したでしょう。わざわざ遠い中国まで行き、誰もが知っているあたりまえの事を話したのですから。
私は文献などで「道元禅師はあるがままの禅の本質を解かれた」と言う程度で、この逸話を理解しておりましたが道元禅師の『典座教訓』というお寺での料理について書かれた書物と、この逸話がやっと重なってくる様になりました。
『典座教訓』では料理の担当になった者が調理器具をどの様に扱うかまで丁寧に書かれております。鍋やお箸、しゃもじも常に置かれる所にあってこそ、はじめて真なる存在感を示し、その役割を果たしてくれる。単なる道具ではなく“み仏そのもの”とまで示されています。確かに丁寧に扱われた道具は輝きを増し、食材を生かします。もちろん美味しさにも繋がってきます。禅寺では調理器具だけではなく、洗面用具や履物など全ての物が丁寧に扱われ整っています。道具が鎮座している様子はまるで坐禅堂のようです。
さて、我々の身体ですが、暑い日に額から流れ出る汗は体温を下げ、汗が目に入らぬ様に眉毛が左右に流します。眼は強い日差しを和らげる様に細め、食事の時にはお椀から立ち上る香りが鼻に入り、味覚を知らせてくれる。
知らぬ間にあらゆる全ての器官が働き、その場所で役割を果たしてくれているのです。
あたりまえを気付かずに日々過ごしている中で、自分の身体の働きを心から感謝出来る時間を持つことは難しいことです。しかし、その完成された姿こそが坐禅なのです。
身体と呼吸、そして心を調えてこそ自分自身が“み仏そのもの“になれる、これほど尊いことはありません。
我々が眼を細める先には同じ様に坐っていらっしゃる“み仏さま“がいらっしゃるのです。

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