私は、山と海に囲まれた自然豊かな地域に生まれ育ちました。
子供の頃、夏休みのある日、近くに住む2人の友達と遊んでいると、1人の友達のお父さんが、私達3人を、海へ魚釣りに連れて行ってくれることになりました。友達2人は海釣り用の釣り竿を持っています。しかし、私には自分の釣り竿がありませんでした。一緒に行きたいけど、釣り竿がないからと諦めかけていた私。それでも友達のお父さんは、私達をトラックに乗せ、向かった先は海ではなく、なぜか山の中でした。そして竹薮の前で私達を下ろし、細く真っ直ぐ伸びた竹を探し始めたのです。そうです。魚釣りとは、釣り竿作りから始める魚釣りだったのです。
そのお父さんは子供時代に自分がした様に、私達にその方法を教えながら、程良い長さに竹を切り、綺麗に枝を切り落とし、釣り糸や釣り針などを付けて、その場で私達人数分の釣り竿を完成させたのでした。
その日、それから向かった海で、何匹魚が釣れたのか、または全く釣れなかったのか、すっかり忘れてしまいましたが、それよりも、あの釣り竿作りの時の、これから始まる楽しい時間を期待させる、何とも言えぬワクワクする気持ちだけは、今でもはっきりと覚えています。
今思えば、出来合いの用意された楽しみではなく、上手くいかない事も含め、一から創り出すその過程も大切であることを学びました。
そして、釣り竿を持っていない私でも、引け目を感じることなく、皆が等しく楽しめる方法を工夫し、目の前で身をもって示してくれた友達のお父さん。その優しさ、頼もしさを思い出す時、人生の楽しみ、心の豊かさとはこういう事なのだと、今も私に教えてくれている気がするのです。
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