小正月が明けぬうちに知人が亡くなりました。明日のいのちは誰にも分かりません。そんな危ういいのちを私たちは生きています。誰でも人知れず、死ぬ覚悟をしているものなのでしょうが、私は未だ死ぬ心構えができていません。
なぜ死ぬ心構えができていないのでしょう。私の人生が今まで比較的平穏に過ぎてきたからかもしれません。
私には少ないとはいえ理解してくれる人がいます。私が死ぬということは、その人たちと永遠に別れるということです。また、私にとって大切な人が死ぬということは、私との交流が断ち切られるということです。それで私は死ぬことを恐れています。
日常の私は、生きているうちに手に入れたものを死ぬことで失ってしまうと思っています。
では、私は何を失いたくないと思っているのでしょう。
生まれてから徐々に身につけた技能や知識でしょうか。いいえ違います。身の回りにある所有物でしょうか。いいえ違います。そのような物は死ななくても、いつか失ってしまいます。それでは一体、何を失いたくないと恐れているのでしょう。
私の頭のなかに記憶されたもの、言い換えれば幼時期から現在まで持続している思いとの別れを恐れているのです。
私の人生で悲しみや苦しみがありました。しかし、それを乗り越えた穏やかさも経験しました。そのような記憶を通して、不安定な日常の中に安定を求めていたのです。その安定がこれから先も続くようにと執着しているそのこと自体が死への覚悟をにぶらせています。
記憶や安定に重きを置かず、いま出会っていることにまっすぐ出会う。これが私にとって死への準備です。
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