曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

人の為が自分の為 []

愛知 寶珠院 手島尚宏 師 

私は昔から困っている人がいると、ほってはおけません。
けれど、困っているかどうかは私ではなく、その人が決めること…曹洞宗を開かれた道元禅師さまは「ものを言う前に三度よく考えてから言うがよい」と示されました。
道元禅師様がなぜこの言葉を残したのか、少しわかった気がした出来事を紹介させていただきます。
 私は天気が良い日は外で寺の作務。庭掃除をおこないます。檀家様のなかで毎日お墓参り、お寺参りをされる方がおります。その方はいつも乳母車をおし、階段を登る時は手すりと杖を駆使し、本堂まで五段程度ある階段を毎日大変そうに登られます。
お会いしていく中で世間話もするようになり、とても仲良くなりました。
ある日、その檀家様がお寺の階段をいつもより大変そうに登るのを見かねた私は、何も言わずその方の荷物を持ち、手を握り階段を登りました。
私は勝手に相手に感謝されている、良いことをしたと思いながら「いつでも手伝いますのでなんでも言ってくださいね」という言葉をその方にかけました。
するとその方は、とてもさみしそうな顔で「ありがたいのだけど、わたしは自分の足で本堂に登ってお参りすることが大事だと思っているから…もうやめてね。荷物を持ってもらうだけで十文だよ。」と、ご指摘を受けました。
その言葉を聞いて、私は、困っているかどうか決めるのは、私ではないと思い知らされました。
私はなぜこんなことをしてしまったのでしょうか。それは「自分だったら」だけで物事を考えて行動してしまい、本来一番に尊重しなければならない檀家様の心の声に 耳を傾けようとしなかったからなのです。
私がしたのは自己満足のありがた迷惑な行為でした。
この出来事から、私はまず 困っていそうな方を見かけたら「何かお手伝いできることありますか?」と、尋ねるようになりました。
すると相手の方も「何かあったらお願いするね。いつも気を使ってくれてありがとね」と笑顔で答えてくれるようになりました。
その笑顔に私は心を洗われるような気持になります。
行動するときはもちろん、声をかけるときにはまず、自分の中で、「何が相手の為になるか」を、考えてから言わないと簡単に相手を傷つけてしまうこともあります。
人生は楽なこと、楽しいことよりも、大変ななことのほうが絶対的に多いです。
それは自分だけではなく、他の方々も同じことです。なので、まず、そのことを頭の片隅に置いて、他人に敬意を示し、誠実に向き合うことが大切なのです。
大変なのは自分だけではないと分かれば、少し心に余裕も出てきて相手のことも思いやることができます。
道元禅師様が示された「ものを言う前に三度よく考えて言うがよい」とは「人のことを思う」心なのではないかと思います。「人のことを思う」ことこそが自分自身に安らぎを与えてくれると思います。誰にあっても自然と笑顔が出て、心がほっとできる関係を築くことが大切であり「人の為が自分の為」になるのではないかと思います。
いつでもどこでも相手のことを考えて、人に接していきましょう。

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