仏教には戒(かい)、戒(いまし)めというものが有ります。
曹洞宗では御授戒と呼ばれる行事に参加された方や、お葬式で亡くなった方に導師のお坊さんが授けられる約束事の事です。
この中でもっとも有名な不殺生戒、生きる物を殺してはならないという戒めについてお話ししようと思います。
さて「生き物を殺してはいけない」という戒め、即ち約束事ですが、これは法律とは異なり、破れば罰が与えられると言うものではありません。
例えば生き物を殺してはならないと言っても、病気を運ぶハエやゴキブリを退治しないわけにはいかないでしょう。肉や魚を避けて野菜しか食べないようにしても、その野菜を育てるための畑を作り、収穫できるようにするためには多くの命を傷付けます。
土を耕すために、あるいは畑の作物を守るために虫やモグラや鳥を退治し、追い払うことは避けられません。
お医者様や学者の先生方によって考え方は異なりますが、病気の元になるばい菌やウイルスも生き物だとするならば、風邪をひいた時は体の中の白血球などの免疫細胞がその菌たちと戦って退治してくれるから健康を取り戻せるのです。
このように考えると、不殺生戒というのは、おかしな約束事に思えてくるかもしれません。誰もが守れないような約束なのですから。
これはその通りで「誰もが守ることが難しいこと」であり、我々が生きる上で避ける事が難しい事があり、そして一つ一つの命として生きる事が大変なことであることを知るための約束事なのです。
我々の命は一つ一つがかけがえのない大切なものですが、その命を支えるためには、多くの尊い命を頂いています。白米の一粒一粒が、稲穂を実らせたかもしれません。野菜や果実も同様であり、その体を頂く動物たちも変わりません。
私達の大切な命は、多くの大切な命に支えられています。不殺生戒という約束は、私たちに命の大切さを省みるきっかけでもあるわけです。
不殺生戒は「生き物を大切にする」という戒めでもあります。
多くの命によって支えられた一つの命を大切にするということは、今まで支えてきてくれた多くの命を大切にすることでもあるのです。
故に、今まで自分自身の命を支え、育んでくれた他の多くの命に感謝し、自分を含めた、生きる命を大切にすること、それが誰にでもできる仏様の修行のひとつです。
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