お盆のお手伝いで檀家さん達の家々を回っていた時の事です。
私はお経が済むと決まって、夏場であれば「熱中症に気を付けてください」、お彼岸の時期であれば「季節の変わり目だから、風邪をひかないように気を付けてください」などの声をかけるようにしています。こうして声かけをしたからと言って、相手の病気や体調不良を必ず避けられるわけではないです。ですが、何もしないよりは良いし、もしかしたらこうして言葉をかけたら本当に病気や怪我を避けられるかもしれない、と思い、気が付くと決まり事のようになっていました。
その日に回った家でも、私はその決まり事の言葉を口にしました。するとその家の方は、「おっさま優しいやぁ、ありがとぉ」ととても特別感謝されて、私は少しびっくりしてしまいました。
その家の方は八十歳近くになられ、息子さんが体を壊して施設に入ってしまったので、普段は一人暮らしなのでした。コロナ過もあって近所付き合いが減っており、誰かと会話する機会も無くなっていたのです。私にとってはもはや決まり文句で、それこそ街中で見かけるティッシュ配りのような感覚で渡した言葉に過ぎなかったのですが、その家の方にとっては、久しぶりに誰かが自分を思いやってくれた、とても嬉しい言葉だったのでした。
「お体に気を付けてください」。最初こそ真心から生まれた言葉だった筈なのに、言い続けているうちに、いつの間にか自分の中で言葉の価値が下がってしまっている事に気が付き、申し訳なくなってしまいました。
四摂法と言う、普段から心掛けるべき四つの善い行いの一つに、愛語と言うものがあります。文字通り、相手を思いやって言葉をかける事です。しかし気遣いの言葉も感謝の言葉も、惰性で言い続ければ中身が無くなってしまうものです。中身の伴った、心のこもった言葉を届け続けたいと、その方に教えていただいた出来事でした。
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