曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

初心を忘れず []

三重 大義院 北孝三 師 

市役所の「生きがいづくり事業」を受けて、15年間都すいている書道教室があります。その教室の中に90歳の女性がいます。

彼女が幼少のころは、親の手伝いをしたり、小さな妹たちの子守で、満足に学校に通うことが出来ませんでした。結婚して子供ができ、子育てや農作業、労働が忙しくて、落ち着いて習字をする時間もなかったのです。75歳の頃、やっと習字ができることが出来て、大変喜んでいました。先生から「一・二・三・七・十」の手本を頂き、紙が真っ黒になるまで書いていました。その筆を持つ指は、厳しい労働の為曲がって変形していたのです。

毎回、基本の字の形、筆順、縦横の線、ハネ方、止め方など先生に尋ね、根気よく繰り返していました。やがて、90歳を迎え五段に昇級したのです。
彼女のたゆみない努力と素直で初心を忘れない心構えが上達に結び付いたのでしょう。

茶道の千利休居士が、「稽古とは、一より習い 十を知り、十よりかえる もとのその一」と詠まれています。
何事もそうであるように、自動車の運転も免許取りたての時は、慎重運転で事故が少なく、慣れてくると、事故を起こしやすい傾向にあります。慣れは味方でもあり、敵でもあるのです。
よく「習うより慣れろ」といわれますが、さらに一歩進んで「慣れたらもう一遍学べ」ということが、大切ではないでしょうか。

「十よりかえる もとのその一」に再出発の大切さが表れていて、90歳で書を学ぶ彼女の姿勢に感動し、本当の稽古の意味を教わったのでした。

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