曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

放てば手に満てり []

静岡 釣月寺 加藤邦晃 師 

皆さんは「放てば手に満てり」という言葉を目や耳にしたことはありますでしょうか。この言葉は、開祖道元禅師様が著した「弁道話(べんどうわ)」の巻の最初のほうに出てくる言葉です。この言葉は、物事に対して抱いた余計な思いや計らい等の執着心を放てば、既に備わっている働きがそこには満ち溢れていると云う意味合いになります。
私が以前よそのお寺にお勤めをさせて頂いていた時のことです。まだ勤めて間もない頃朝のお勤めが終わった後、住職から「木魚は叩く物ではなく鳴らすものだ」と注意を受けました。その時の私は、まだ慣れない環境からくる緊張感もありその点を意識せずに木魚を“鳴らす”のではなく“叩いて”いたのです。当時、私の木魚の鳴らし方には余分な力が入っていて、住職からしたらとても強く叩いている音にしか聴こえなかったのでしょう。これではもともと備わっている木魚の良い音が鳴らないばかりか、叩いている私自身が長く叩き続ける事が辛くなるのを予見されたのだと思います。その時は、注意を受けた事により更に緊張や不安感が高まり体の動きがぎこちなくなりました。言われていることは頭では理解できましたが、体が思うように動かない状態が暫く続き大変悩みました。それから少し経ったある日、住職から「余計な思いを持っているから変なところに力が入って上手に鳴らせないのだ」と指摘されたうえで『放てば手に満てり』という言葉を教えて頂きました。
 私の心の中の「善く見せたい・失敗したくない・注意されたくない」等の余計な思いが身体に余計な緊張を生じさせて手や腕に不必要な力が入って強い叩き方になっていたのです。その様な思い計らいを放てば、自ずと備わっている動きが現れてくるのです。つまり、「手に満てり」の状態になるのです。この言葉を聞き意識を変えてみると、次第に音も良くなり腕の疲れも軽くなりました。
皆様方も、ここぞという時には「自分を善く見せよう」と云う様な思いや「失敗したらどうしよう」と云う思いを解き放ってみてはいかがでしょうか。そうすれば、そこにはご自身が培って来られた動きが自然に現れて力を発揮することが出来ることでしょう。それが「放てば手に満てり」と云う事なのです。

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