時は過ぎ行くもの。人もまた過ぎ行くものであります。命を与えられたすべての生き物はやがて死を迎えます。人は亡くなった人を思い出として心に残し自分の人生を歩いていきます。
当山は市内でも昔から一番多くお檀家さんがお参りに来るお寺であります。最近は少なくなりましたが、昔は大変なもので、昔といいましても二十年ほど前のことではありますが、夏場は朝の三時頃からお参りに来られます。墓地がお寺のすぐ横にあります。よく人が行き交う通路は「銀座通り」といわれ朝の早くからお参りでにぎわっていました。お参りの方々の話し声やバケツの音、掃除の音、線香の香りや、墓前での御経等、毎日が暗いうちからお化けも逃げていくような墓地なのでした。「いやーね。和尚さん。毎日仕事に行く前にご先祖様に挨拶に来ないとどうも気分がわるくてね」とか、「夕方に寝るから朝早く起きてしまってね。そうすると、お墓参りに行って来るかってなるんですよね」など、ご先祖様を大切に思う気持ちが強いところなのです。
あるお彼岸のお中日のこと、おばあちゃんが、「お参りに行ったのに本堂が開いてないじゃないの」と夜中の二時頃にお電話がきてびっくりした思い出があります。そのおばあちゃんは毎日一番にお寺にお参りに来ていました。お墓参りでは、一本タバコに火をつけ、ひと吸いし、お墓に線香と一緒にお供えします。なんでもお父様が大の愛煙家のようでした。「ぼうよ」と三十過ぎの私にこう言うと、「あんたは先代のお父さんのようになろうと思わんでええからね。あんたはあんたなりのお坊さんになったらええんやで」と言って下さり、今まで先代を越えようと、越えなきゃならないと思っていたことがふっと消えてなくなり、気持ちが楽になりました。
命の流れの中にもそれぞれいろんなご縁が重なり、その時代時代の人の人生があります。時の流れはあれども、人は亡き人から学び、消化し、次に伝えることができます。ご先祖様を大切にする思いは、人に「安心」をもたらし、一歩前に進めてくれることと思います。背中をそっと、やさしく押して、温かく見守ってくれるような、そんな感じなのです。
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