曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

末期の牛乳 []

三重 極楽寺 足立知典 師

訃報の連絡を受けますと枕経にお伺いいたします。そこで末期の水を差し上げます。末期の水と言いますのは、当地方では割りばしに脱脂綿を巻き付けたものを水の入った湯呑につけて濡らし、そのまま個人の口元に持っていき、お口に水をお与えする儀式になります。末期の水の由来は諸説ありますが、お釈迦様が入滅の際、雪山に住む鬼の神が清らかな水を捧げまして、この浄水が最後にお口にされたものと言われているところからです。
数年前にお世話になっていました檀信徒の方が亡くなられました。お年は百歳近くになられる方でご長寿でした。枕経、お通夜、翌日には葬儀、告別式を通常通りお勤めさせていただきました。出棺の時間が近づいてきました。お別れの際、最後にもう一度お水を口に差し上げますが、その時喪主様が「和尚さん、少しだけ出棺を待ってもらえるかな」とおっしゃられました。私は「お時間に余裕がありますから大丈夫ですよ」と答えました。喪主様は急いで出かけられ、何かを買って戻って来られました。コンビニで1リットルの牛乳を買ってきたのです。牛乳の口を開けてコップに注ぎ割りばしに付けた脱脂綿にたっぷりと牛乳を含ませ口に与えました。参列の皆様方が次々に牛乳を最後に与えました。聞きましたところ、幼少期は大変ご苦労をされたらしく、食べる物にも不自由な生活が長く、就職して大人になってから少しずつご自分の好きな物を食べられるようになったそうです。中でも子供の頃、牛乳が飲みたくても飲めなかったことから、生活がある程度安定してからというもの大好きな牛乳を毎日1リットル飲むことを習慣にしてきたそうです。
最後に大好きだった牛乳、末期の牛乳を飲んでいただき、故人も安らかなお気持ちで旅立たれ、残されたご家族も悔いのないお別れができたのではないでしょうか。

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