「OK Google おじいちゃんが好きだった曲をかけて」
とある、ご自宅葬でのお通夜の際に、故人のお孫さんが発した言葉です。
時は、令和2年、流行語大賞が「三密」というコロナ禍真っ最中でした。人が密集することを極力避ける時期で、喪主様のご家族3人でご自宅葬を選択されました。お仏壇を祭壇とし、近所のお花屋さんで用意をした色とりどりのお花が部屋中に並びます。お棺はインターネットショップのお急ぎ便で注文をされるという、まさにアットホームな手作りのおお葬式。悲しさの中に、温かさを感じる雰囲気が漂っていました。
通夜式の開式時間は17時。防災無線スピーカーから、毎日夕方の定刻に地域中に流れる「今日の日はさようなら」のメロディーが流れ始めると、喪主様自ら「じゃ、はじめよっか」と開式の辞が述べられるのでした。通夜式が滞りなく終り、ご自宅の大きな壁かけテレビに、スマートフォンが接続され、故人との懐かしい写真がスライドショーで流れ始めたころ、ピンポーンとチャイムが鳴りました。
「宅配寿司お届けに参りました――。玄関外において置きますね――。」
黙食が推奨される時期でしたが、お孫さんがまるで学校の給食当番のように、「手を合わせてください。いたーだきます。」ご家族だけの通夜ふるまいがはじまるのです。
その後10秒ほどの沈黙があり、この沈黙が破られる次の言葉が、
「OK Google おじいちゃんが好きだった曲かけて」
というお孫さんの言葉だったのです。
ご自宅のホームスピーカーから、坂本九さんの「上を向いて歩こう」が流れ始め、歌詞の通り「涙がこぼれないように」笑顔で、和やかな思い出話に花を咲かせるご家族の姿は、とても微笑ましく、私はお寺への帰路につきました。
諸行無常 世の中の全ての事は、うつり替わっていくものである。私たちの命も。
ならば、お葬儀の在り方も諸行無常で、恒なる形は無く、時代の中で移り変わっていくのだと感じさせてくれた、コロナ禍のアットホーム家族葬儀でした。
| top
| 1
| 2
| 3
| 4
| 5
| 6
| 7
| 8
| 9
| 10
| 11
| 12
| 13
| 14
| 15
| 次のお言葉
|