今から18年前の話です。私の一年下の後輩が、病気のため31才の若さで亡くなりました。
入院中の彼は、常に気丈に振舞っていましたが、残された時間が僅かであることを知って、両親に本音を伝えました。「みんなに会いたい」と言ったのです。
サッカー選手で爽やかな性格だった彼には、心を深く通わせる多くの友人がいました。最後にもう一度、楽しいひと時を過ごしたかったのでしょう。すぐに多くの友人が、病室いっぱいに集まりました。本当は病人姿の自分を見せたくなかったかもしれません。しかし、彼は最後までスポーツマンらしく、潔くありのままの姿で接しました。
しばらくして彼は、家族や友人を前に言いました。
「どうか忘れないで欲しい。僕はあの夜空に輝く星の一つになって、みんなのことを見ている。探さなくても大丈夫。お月さんの隣に光る星だから。」
この数日後、彼は静かに息を引き取りました。
彼は、自分のことを忘れて欲しくなくてこれを言ったのでしょうか。私は、彼の本当の思いは、そうではなかったと思います。
自分のことではなく、残される人々が悲しみの中で希望を失わないように、星になっていつも一緒にいると言ったと思うのです。しかも、無数の星の中で、「月の隣に輝く星」という具体的な目じるしを示して。それは明らかに、家族や友人を思いやってのことでした。この上ないやさしさでした。
それから18年たった今、彼のご両親はお墓の掃除を日課とし、周囲に慕われ支え合いながら穏やかに過ごしています。その姿を見る時、悲しみは消えなくても、彼は人々へのやさしさとなって、今も夜空の星のように、確かに存在している気がするのです。
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