正法眼蔵三界唯心の巻より
「三界唯一心 心外無別法 心仏及衆生 是三無差別」
この巻は寛元元年(一二四三)七月一日、越前吉峰寺にて衆に説かれたものであります。この巻も悟りということについて説かれた巻であり、それを三界唯心という言葉で説かれたのであります。
この「三界唯一心」という言葉は道元さまが「八十華厳経」の「三界所有唯是一心」より引用したものであります。三界とは欲界、色界、無色界のことであります。生死流転の苦しみ迷いの世界をこの三段階に分けたのであり生きものが住む世界全体のことをさします。欲界は淫欲と貪欲の二つの欲に悩まされる世界で、地獄、餓鬼、畜生、修羅、人間、天上の六道であります。
色界は欲界の上にあり、淫欲と貪欲より離れたものが住む世界であります。この世界は絶妙な物質(色)より成る世界であり、欲を離れた清らかな世界であります。
無色界は最上の段階の世界であり、物質を越えて精神のみの世界であります。
この巻でいう三界とはこのような世界をいうのでありますが、しかし一口に申せば三界とは全宇宙、全世界を意味しているのであります。そして三界唯一心とは全宇宙、全存在は唯一心であるということであり、一如のものであり一つであるということであります。即ち全宇宙のあらゆる現象は唯一心の現れだしたものであり、全存在は実在性のないものであるということであります。それを「心外無別法」と言ったのであり、宇宙と心とは一如であります。
私たちが認識し存在していると感じている世界は所詮私たちの心が、有る無しと認識しているにすぎないのであり、私たちの心を離れては存在するものではないのであります。これは私たちが悩み苦しむこの世界も心がなせるもの、心のはたらきによって引き起こされるものであります。この心の持ち方次第で私たちはこの苦しみからのがれることができるのであります。この心を「心性」と言います。
欲には仏教では基本的に五つの欲望があると言われています。それは食欲、性欲、睡眠欲、金銭欲、名誉欲の五つであります。又一方色声香味触により起こる欲も五欲と申します。
人間は他の生きものと同じように、生命を維持するために何かたべなければなりません。食欲は人間も他の生物と同じように本能的欲望であります。しかし、人間が他の生物と異なるところは、必要以上のものを望むという貪りの心であります。この心が逆に苦しみや悩みの原因になっているのであります。この心を正しく保つことが出来れば食欲に対する苦しみ悩みから開放され、それが原因の病気などからも逃れることができるでしょう。
性欲についても同じことでありまして道元さまは十重禁戒の第三番目に不邪淫戒として、邪淫を戒めておられます。邪淫によって起こされる悲劇や苦しみもやはり心によることが多いのであります。他の生物は種の維持の為にのみこれを行うのでありますが、人間は知能の発達の故に性欲のコントロールを誤ることがあるのであります。
金銭欲や名誉欲についても同じことが言えます。この欲望は人間にのみ認められる欲望であり、これが原因で起こされる悩み苦しみ、悲劇は数えきれません。
環境破壊や人権の無視、金融の破綻、醜い政治の争い、果ては国と国の戦争などそれらは人間なるが故の原因であり、心が原因であります。
道元さまは「一心一切法 一切法一心」と言っておられますが、これも「三界唯一心 心外無別法」と同じことを意味しており、仏と衆生と心とは一つであり全宇宙の真理であると説かれ、三者は無差別であると説いておられます。
この「三界唯一心」の「心」とはお釈迦様がお悟りを開かれた時の第一声であり、お釈迦様一代の説法でもあり、一代の体験でもあり、真理の体顕でもあります。
(合掌)
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