以心伝心―言葉によらないで、お互いの心から心に伝わる。
道元禅師の「正法眼蔵」に「神通の巻」があります。神通というのは、不思議な力、自由自在な通力という事ですが、ここで以心伝心の事をわかりやすいお話しで説明されています。
昔、中国に潙山霊祐禅師という方がいました。この潙山禅師がある時、昼食をしていると弟子の仰山和尚がやって来ました。すると潙山禅師は寝返りを打ちました。仰山和尚は「そのままどうぞ」と言って部屋を出て行こうとしました。潙山禅師は、起き上がりながら仰山和尚を呼びとめました。そして、「今、夢を見たんだが、どんな夢か当ててみよ。」と言うと、仰山和尚は「ハイ」と返事をして、冷たい水の入った洗面器と一本の手拭いを持って来て、出て行きました。
潙山禅師は洗面し、気持ち良さそうに自分の座につきました。そこへ、今一人の弟子、香厳和尚がやって来ました。潙山禅師は「今、仰山と夢の話しをしていた所だ。どうだ、一緒にやらんか。」と言うと、香厳和尚は、お茶をたてて来てさしだしました。潙山禅師はおいしそうにお茶を一服呑んで、「二人の神通の智慧は、智慧第一の舎利弗や神通第一の目連尊者よりも優れている。」と誉め称えたといいます。
私はある電車で地方巡業のお相撲さんに会いました。私が乗り込むと私の座席番号にお相撲さんが座っていました。「ああ お相撲さんは体が大きいからなあ」と思いつつ空いていたので他の席に座って、お相撲さんの方を見ていました。すると親方らしき人がお弁当を手にしました。そうすると若いお相撲さんがお茶を差し出し、食べ終わるとそれをビニール袋に入れました。雑誌を手にすると、若いお相撲さんはカバンからメガネを取り出して渡しました。
無言なのに、水が流れるが如く、スムーズにこのやり取りが行われたのです。
この様に皆が相手の立場に立って物事を考え、相手の気持ちを思いめぐらせば、より良い世の中になるでしょう。
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