あるお爺さんのお話であります。その方は大事な息子様を十年程前に交通事故で亡くされ、また数年前には奥様にも先立たれ、今は寂しい一人暮らしの生活をなされております。
そんな生活をしているある日の夕方に、思い腰をひきずりながらの買い物の帰り道、「ああ、何と寂しい、惨めな人生なんだろう。子供にも、妻にも先立たれ、今では誰にも見放されてしまった。もうこれ以上一人で生きていたって惨めになるだけだ。そうだ、もういっそ、死んで妻と子供たちのもとへ行こう」そう考えながら、重い買い物袋をぶら下げ、夕暮れの道を腰を九の字に曲げ、とぼとぼと自宅へ向かって歩いておりました。
すると後ろのほうから、「おじいちゃん、おじいちゃん」と小さな子の声がします。何だろうと後ろを振り返ると、そこには見たことの無い、ちいちゃな女の子が立っていました。
「おじいちゃんて私のことかなと」、たずねると「うんそうだよ、はいこれあげる」と、ちいちゃな手から私の手に一つの飴玉を乗せてくれました。「お嬢ちゃん、お爺ちゃんにこれくれるの?」どうしてかなと聞くと、「うん、だって、おじいちゃんの後ろ姿、あんまり寂しそうだったから」その言葉に驚き、声も出ないおじいちゃんに、そのちいちゃな女の子は、「元気でね、バイバイ」と言って元気に走りさって行きました。「ああ、おれは何と馬鹿なことを考えていたのだろう。どんな時でも人間は、一人じゃないんだ。まだまだ、これから一生懸命生きていかなければ、先に死んだ妻と子供たちの分までもな」とおもい、ちいちゃな女の子から貰った一つの飴玉をしっかり握りしめながら家にもどったそうです。今でも、その飴玉は仏壇の中に供えられ、生きる力がなくなりそうになると、じっと見つめて手を合わせ、そのときのちいちゃな女の子のやさしい言葉を思い出し勇気を振り絞って暮しておられるそうです。
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