ある有名な仏教学者は「般若心経」の「色即是空 空即是色」ということは、一口で言えば「こだわりを捨てることである」と言われますが、なるほどとうなずけます。
今日は妙好人道宗という人の話をします。
篤信な念仏行者であった道宗は、合掌集落で有名な五箇山の赤尾の人です。この道宗は毎年京都のご本山へ参る事を一番の楽しみにしていました。とはいえ裏日本から歩いて行くのですから大変なことです。
ある年、道宗の妻も夫につれだって本山詣りをすることになりました。多年の願いが叶って喜んでおりましたが、何と言っても旅に必要なのは路銀です。お金です。妻は「これだけのお金を大切にして持って来たのですが、若し途中で足らなくなったらどうしましょう。」とたずねると、道宗は即座に「そのお金を懐から出して道傍に捨てよ」ただ捨ててはもったいないから、人様が拾いやすいように、紙の上に並べておけ、おまえはお金に心がかかっているからお念仏がおろそかになるんじゃと言いました。夫の言葉の厳しさに止むなくその通りにしてはみたもののどうしても先が案じられます。大分歩いた時、道宗は妻を振り返り「お金を捨てよと言うのにまだ持って歩いているのか」と厳しく咎めました。妻は「もうとっくに捨てたではありませんか」というと「お前の心の中にあるお金のことだよ、いつまでもそれを持って歩いているから一向にお念仏が出てこぬではないか」と言われて妻は心から愧じ、ひたすらお念仏を称えて京都のご本山へお詣りしました。
「心の中にあるお金」とはよく言ったもので、誰しも何か心当りがあるところです。一番捨てきれぬものを捨てることこそ、大切なことかもしれません。日頃私どもが神社仏閣に参拝する時は必ずお賽銭を投げ入れます。そんな時、たとえ願い事を忘れても、こだわりを捨てることは大きな意義があります。
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