私は毎年、蚊取り線香や花火、松明の煙の臭い、盆提灯や灯籠流しの蝋燭の炎、蝉の声、西瓜や瓜の味に触れて、またお盆の季節がやってきたなあ、としみじみ感じさせられます。すると亡き人と過ごした日々を思い出し、懐かしさが蘇ってまいります。ご先祖様と共に見知らぬ精霊(しょうれい)もお招きするために、どのお宅でも竹やすすきで盆棚をつくったり、松明をたいたり、お基をきれいにしたりして準備をします。一年の内で亡き人と一番近づくときです。家族と共に、盆休みで帰ってきた兄弟や親戚の人たちも同じようにお迎えします。皆同じ思いでお迎えします。今ここの生の位にいる、「生きている」私たちが死の位にいる「今は亡き」ご先祖様や精霊に再会して供養を差し上げるのです。
中には身近な人の死を背負って辛く生きている人もいるでしょう。たとえ声が聞こえなくても、たとえ本人の姿が見えなくとも、生きていたときの思い出があるからこそ、思い出を共有していくことはできるのですし、また後でもう一度そのときの経験を振り返ることもできるのです。二人だけが共有している思い出をたよりに、いつも亡き人がそばにいてくれるし、どこかで繋がっていることができるのです。その繋がりを再び強く蘇らしてくれるのもお盆ならではのものです。お盆は「心温まる懐かしい思いで」「忘れていた大切なもの」を心に取り戻してくれる行持です。そんな繋がりを確認したとき、亡き人に「おかえり」と声をかけると「ただいま」という声が返ってきます。
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