曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)
たのしみ法話
たのしみ法話

お線香の話 [No,1469、10月6日〜10月12日]

三重県伊賀市 観音寺住職 大橋俊法 老師

 今日は、お線香についてお話し申し上げます。お線香は皆さんよくご存知のように、お寺参りをする時、仏壇に手を合わせる時、お線香はなくてはならないアイテムでございます。最近では、煙の少ない、臭いの無いものを使っているご家庭が多くなってきていると聞きます。仏様に御供養する場合、お線香がなくては何とも格好がつきませんが、さて、その意味するところは何なのか、一応心得ておいて頂きたいと思います。
 マッチで点火してジッと見ておりますと、お線香は少しずつ燃えて下がっていき、ついには全部灰になってしまいます。一度まっすぐに立ててしまえば、なくなるまで燃えています。ご家庭で使っているものは大よそ三十分ほどで燃え尽きるものが多いのですが、そのお線香から出ている煙の変幻自在なさまもさることながら、あたりに強い一陣の風が吹いてもいっこうに消えてしまうような気配はみあたりません。このように一本のお線香を取り囲む環境がいかように変わりましても、お線香は少しもひるまず、一服することもなく変わらぬ速さで燃え続けていきます。
 そこで仏教では、このお線香が最後になくなるまで燃えていく姿をとらえて、“精進”ということを象徴するのだと私たちに無言で教えてくれているのです。精進というのは、正しい努力、最後までやり抜く、頑張り通すという意味ですがこのように実際お線香に火をつけてみますと、よく精進という意味が合点できるのでございます。
 人の一生のうちには必ずといってよいほど苦難の山坂があって、それを一歩ずつ乗り越えていきませんと人生の喜びを得ることができません。そういう場面に遭遇したとき、信仰にささえられてともされた一本の線香の意義は、すこぶる大切なものと感じさせられるのでございます。
 大本山永平寺前貫首故宮崎奕保禅師は、あわただしい毎日を送る私たちに、「家庭で朝、お仏壇の前に座り、お線香をまっすぐに立て静かに合掌し、ご先祖にお参りをなさい。それは立派に坐禅に通じる修行です」とお示し下さいました。
 毎朝、仏壇に向かってたむけるお線香をみては、目標に向かって頑張り通す。どんなにつらい、惨めなことがあっても一貫してやり抜くという強い勇気を与えてくれていると感じたいものであります。

| top | 前のお言葉 | 796 | 797 | 798 | 799 | 800 | 801 | 802 | 803 | 804 | 805 | 806 | 807 | 808 | 809 | 810 | 次のお言葉 |