皆様今日は、良寛さまの涙についてお話しいたします。
漢詩の中でも度々「涙下りて収むる能わず」等と読まれていますから、とても涙もろいお方だったようです。でもその涙は、自分の為に流す涙など一滴もありません。
当時の混沌たる世情を憂い、相次ぐ天変地異に打ち沈む民衆の悲しみに心を痛め、人々の心の愚かさを嘆き、そればかりか、当時の敗退した仏教界全般の姿にまで思いをはせ、人知れず涙を流されたものでしょう。
涙といえば次のような逸話があります。
それは、良寛さまには馬之助という甥っ子がありました。弟由之の長男です。滅びゆく実家を目の当たりにしては、すっかりぐれてしまっても致し方ありません。弟夫婦は何とか諫めてほしいと兄良寛さまに懇願したのもむりからぬ事です。可愛い甥っ子の事なので断る訳にもいかず、しぶしぶ承知したものの諫める言葉など思い浮かぶはずがありません。無言のまま沈黙の三日間が過ぎました。四日目の朝急に「もう山へ帰る」と言われ、縁側に腰を下ろし、わらじの紐を結ぼうとした時、何を思いつかれたのか、「馬之助や、すまねがわらじの紐を結んでくれぬかなあ」と申されました。とっさの事でしたが、馬之助は「はい」と返事をして腰をかがめて紐を結び始めたその時です。良寛さまは溢れる涙をこらえ切れず一滴の涙を馬之助の首筋に落とされました。はっとしたに違いありません。
これがキッカケで馬之助は心を改め、実家を盛り立て、菩提寺の為にも尽力されたようです。道元禅師は「愛語というは衆生を見るに先ず慈愛の心を発し」と申されましたが、たとえ口に出さなくとも慈しむ心があればこの一滴の涙も又立派な愛語の形ではないでしょうか。
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