平成二十年をあらわす一文字は「変」の一字でした。平成十九年は「偽」の一字でした。清水寺の森清範貫主が年の暮れに大きな文字で書かれます。この字のように、食品偽装、食品汚染、秋葉原十七人殺傷事件などの異変の多い国になりました。
近江商人の生き方をあらわす「三方よし」ということばがあります。これは、売り手よし、買い手よし、世間よしと三者の調和があることをあらわすことばです。食品偽装や食品汚染問題は売り手の犯罪であります。八万人以上の労働者の首を切った派遣切りや雇用止めは、労働の買い手である企業の犯した非人間行為であります。
経営者や正社員は非正規雇用労働者の苦しみをなぜ共有しようとしないのでしょうか。仕事と利益を分け合うワークシェアリングの心をなぜ持てないのでしょうか。「世間よし」ではなく、冷酷で偽りの多い社会になってしまいました。
禅宗の道場では、食事を頂く応量器を袱紗から出して並べる時、釈尊の御一生の四つの節目を、仏生迦毘羅(かびら)・成道摩掲陀(まかだ)・説法波羅奈(はらな)・入滅拘稀羅(くちら)と唱え、つづいて「如来応量器(にょらいおうりょうき)、我今得敷展(がこんとくふてん)、願共一切衆(がんぐいっさいしゅ)、等三輪空寂(とうさんりんくうじゃく)」と唱えます。この等三輪空寂とは、三輪すなわち布施する人、受ける人、布施されるものの三つが、ひとしく我欲と我執とを離れ、それぞれが仏の心の三つの働きであるという意味であります。経済や企業が現実にかかえている問題と仏教とは次元が違うといわれるかもしれません。しかし「偽」や「変」の一字で示される日本の社会が失っているのは何であるかを仏教は明白に教えていると私は言いたいのです。
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