曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)
たのしみ法話
たのしみ法話

「ふきのとう」と因果報恩 [No,1505、6月8日〜6月14日]

静岡県磐田市 龍雲寺住職 山中健志 老師

 「お父さん、あれ何?」春の暖かな日に息子達と散歩していると、上の子が突然立ち止まり指差して言いました。小さな指の先には「ふきのとう」が在り、これは、「ふきのとうと言うのだよ。」と答えました。子ども達はただ答えを聞くだけみたいなので、すかさず「この草は、食べられる草で、お父さんのお祖父さん、君たちの曽御祖父さんが好きな食べ物だったよ。」と教えてあげると、今度は目を丸くして「これ、食べられるの?おいしいの?曽御祖父さんって?」子ども達の質問攻めの中、私はふと自分の幼少期のことを思い出しました。小学校2年生の時、祖母にお寺の横に流れる川の堤防に連れられて、つくしや、ふきのとう、タンポポを採りに行ったとき「これどうするの?なににするの?」と聞くと、「たべるんじゃよ。御祖父さんが特にふきのとうが好きなんじゃよ。」と答えてくれた事、祖母から教わったことを、今自分が息子達に同じことを教えているのではありませんか。受け継いだ事は、ひょんな所で次に伝えることがあります。
 私は毎日経典を唱え、そして人々の前で法話を説いていますが元となる物は御釈迦様、開祖道元禅師、歴代の高僧の方々が日々修行なされ、悟られ伝えられた教えであります。そして今日私たちが受け継ぎ日々精進して次の時代に残さなければいけない教えであります。同じ様に家族の中にも、受け継ぎ伝えなければいけないことが有るはずです。ですが今現在では、家と言う生活が無くなってきているのです。個人を尊重し、個々に生活する。確かな個人を敬い尊重することは大切なことです。ですが、自分勝手な生き方ではいけません。多くの中の自分、家族の中の自分、先人の方から受け継いで次の世代に伝える自分、今の時間を大切にして生きなければいけないのです。
 私は、時代時代の流れと言う物はあるかと思いますが形と言うものは変わらないと思います。そして受け継いでくれる者もまた変わらないと思います。
 子ども達に「ふきのとう採って御祖父さんに食べてもらうか?」と言うと「うん。いっぱい採っていこう」子ども達は嬉しそうに採り始めました。
 子ども達の姿を見て私は「因果報恩」という言葉を改めて思いました。子どもと一緒に「ふきのとう」を採り、心の中で、帰ったら「御祖父さん御祖母さん」に供えよう。そして、いつか息子たちが親になり、その子ども達が私のために「ふきのとう」を採ってきてくれることを思いながら「帰ろうか?」と言いました。

| top | 前のお言葉 | 751 | 752 | 753 | 754 | 755 | 756 | 757 | 758 | 759 | 760 | 761 | 762 | 763 | 764 | 765 | 次のお言葉 |