物を大事にする美代子さん。御年八十五歳。美代子さんの楽しみは、自分の畑でできた野菜を、背負い籠に入れて、近所の家一軒一軒に配ること。
春には菜の花の新芽を、夏にはキュウリやトマト、秋や冬には丸々太った大根、白菜を綺麗に洗ってすぐ食べられるようにして持ってきてくれます。
美代子さんの背負い籠は、長年使っていたせいであちこち穴があいていました。私は野菜のお礼に、同じ大きさの背負い籠を美代子さんヘプレゼントしました。
しかし一週間たっても、二週間たっても、依然として穴のあいた古い背負い籠を背負っていました。不思議に思い、ある日どうして新しい方を使わないのか聞いてみました。すると「あれはよそ行き用です。」と言うのです。その時私はその意味がよくわかりませんでした。
私が余計なことを言ったせいでしょうか、その後、新しい背負い籠で野菜を配る美代子さんの姿を目にするよう、になりました。
それから数日して、犬の散歩で美代子さんの畑を通りかかると、いつものように背中を丸め仕事をする美代子さんがいました。しかしその横にあったのは、穴のあいた古い背負い籠だったのです。“まだ使っていたんだ…。”と思いました。
後から分かったことですが、美代子さんは収穫したばかりの土のついた野菜を穴のあいた古い籠に入れ、家に持ち帰って綺麗にしてから、わざわざ新しい籠へ入れ替えて近所へ配っていたのです。この時「よそ行き用」の意味がやっとわかりました。雨の日には、新しい背負い籠にビニールを被せてもいました。
「もったいない」という言葉がありますが、私は「もったいない」とは、「物」の「本質」が無くなるまで使いきることだと思います。そのためには、一つひとつのものを丁寧に扱い、少し穴があいたり、ほころんだりしたら修理をし、物の本質がなくなるまで最後まで使い切ることなのだと、美代子さんの行いから教わりました。
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