佐野丹丘先生が初めて当寺を訪れて頂きました時には、総代全員で迎えました。
顔には柔らかい笑みを浮かべ、常に温顔を絶やさず静かに書についてお話しされました。
「作品にはそれぞれの個性がなければならない、真似では自分を生かす作品は出来ない。楷書をこれでもかこれでもかと勉強した後、更に色々な字体を勉強し、その後作品ができる、けして巧く書こうと思ってもならない、その作品には書いた人の魂が入らなければならない」と力強くお話しされました。
その後、先生のお宅(沼津)を訪問しました。
ゆったりとした部屋で、一人で墨を磨られ作品を書くその姿は、外の雑音を跳ね除け、まさに静寂そのものであります。
眼光は輝き全宇宙を筆先に集め、ただ其処には運筆の音が静寂を破るのみであります。従容として然も侵し難い先生の姿に魂の秘密を把みえた気がしました。
「書道とは嫁ぐ娘に、父母が、あなたのほんとうの父母は私達ではありません、嫁いだ先の父母です、これからはほんとうの父母と思って尽してやって下さい、と心から嫁ぐ娘に云える事と、其れを受け、心から嫁ぐ娘が実行出来る、是が書道であります」又、書道の秘訣の問いに「イメージの喚起・集約・保持」とも言われました。
先生は「心で書く書」書禅一如の体現者であります。
国賓待遇でアメリカ・中国に行った事、又、世界中の子供の書に対する態度、何処の国の子供たちも積極的に自分に接してくれた事等を嬉しく思い出しながらお話して下さいました。
先生は博学の人であります。
曹洞宗書道展審査委員・毎日書道展審査委員・東洋書芸院顧問・産経国際書会名誉顧問・東洋書人連合理事長・日本尚書連盟会長・書道研究尚友会会長と寧日も無い、しかし先生の心は常に穏やかそのものであったと思っております。
国際芸術文化賞・正力松太郎奨励賞・内閣総理大臣賞 授与
平成21年6月13日遷化されましたが、先生を偲んで当寺の句碑の字を今現在でも観に来る人が絶えません。
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