曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

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たのしみ法話
たのしみ法話

有り難う [No,1601、4月4日〜4月10日]

三重県度会郡 法光寺住職 伊藤訓之 老師

私が26年前に曹洞宗の本山、福井県の永平寺で修行をしていた時のことです。
 お経を読みながら町並みを歩きお布施を頂く、托鉢(たくはつ)という修行があります。
托鉢の修行は、お布施が多いとか少ないとか、してあげてる、してもらっている、ではいけません。お布施をする者、される者、お互いの心の尊さを実感するのが大切です。
 ですから、お布施を頂くと、布施の心の尊さを述べた偈文、「財法二施、功徳無量、檀波羅蜜、具足円満」(ざいほうにせ くどくむりょう だんばらみつ ぐそくえんまん)と唱えます。
 私は、初めての経験で不安一杯でした。お布施をしてくれるだろうか?偈文を間違えずに言えるだろうか?という、本来のものからは、かなりかけ離れた所の不安です。
 偈文を心の中で、覚えながら練習しながら歩いていると、一人のおばあさんが私に近づき、「ご苦労さん」とお布施を渡してくれました。
 私は、あわてて偈文を唱えはじめます。「財法二施、功徳無量・・」・・途中で次の句が出てきません。「どうしよう・・・。」おばあさんを見ると、両手を合わせて私をじいっと見つめています。
 おもわず・・「ありがとうございます」頭を下げました。すると、おばあさんも「ありがとうね」と微笑んでくれました。
本山での修行を終えてから、お釈迦様の教えに「人の生を得くるは難く、やがて死すべきものの、今命有るは有り難し」と、あることを知りました。
 これは、人としてこの世に生まれることの難しさ、今ここに生きている事の有り難さを説かれたものです。
 このお釈迦様の教えが、今日の「有り難い」「ありがとう」なのです。
今でも「ありがとう」と手を合わせる時、26年前の托鉢の時のおばあさんの笑顔と、そして、その時にとても清々しい気持ちになった自分を思い出します。
 お釈迦様は私たち曹洞宗のご本尊様です。そして今月、4月8日はお釈迦様のお誕生日です。

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