私のお寺には一本の木槿の木があります。何度か植え替えているのですが枯れることもなく、毎年元気に開花します。その生命力には驚かされます。木槿は今の時期に白や赤の美しい花を沢山咲かせます。芙蓉によく似たその花を眺めると、夏の到来を実感します。
「槿花一日自ら栄を為す」
禅に親しんだ中国の詩人、白楽天の漢詩の一句です。
ここから「槿花一朝の夢」という言葉が出来ました。木槿の花は長く咲き続けることなく、いつの間にか地に落ちてしまいます。その姿を人の栄華や命の儚さに例えた言葉として使われています
しかし、木槿の花の姿に感じる儚さは、それを見る者の心の仕業です。木槿は自らを儚い存在とは思ってはいないでしょう。木槿は木槿であり、決して向日葵にはなれません。我々の思いとは関係なく、ただひたすら花を咲かせるだけです。木槿の花は、それを眺める私達の心に囚われることなく咲いているのです。
我々は自分の生き方を省みる時、他人よりも上手くやれているか、世間から見てどの程度の出来栄えか、という思いが心に浮かびがちです。しかし、他人を羨み見下し競争し物真似をして、他人や世間というアテを描き自己を追い求めたとしても、そこに本当の自己を見ることができるのでしょうか。本当の人生を送ることができるのでしょうか。
「天上天下唯我独尊」御釈迦様がご誕生されてすぐに発せられた御言葉だと伝えられています。これは、「自己の人生は他人と比較する必要はなく、誰も代わりにはならない。自己の人生を生きるのは自己のみである」という意味です。
他人をどう思おうとも、他人がどう思おうとも、私達は自己の人生を生きるしか無いのです。大切なのは自己の人生の花をしっかりと咲かせることです。
「槿花一日自ら栄を為す」
「木槿の花が咲くのは僅かな間であるが、その中に精一杯の生命が輝いている」私はそのような意味と捉えています。
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