先日、友人と一緒にお寿司屋さんに行きました。
そのお寿司屋さんのご主人は、ひと段落して私にこんな話をしてくれました。
「私には今、忘れられない恩師がいます。それは小学6年生の時の担任の先生です。
ある日、先生は私たちに般若心経の最後の一節を覚えさせたのです。『羯諦羯諦、波羅羯諦、波羅僧羯諦、菩提薩婆訶(ぎゃーてーぎゃーてー、はーらーぎゃーてー、はらそーぎゃーてー、ぼーじーそわかー)』と何度も何度も繰り返して教えてくれました。そして最後ににっこり笑って『意味は知らなくてもいい。』と言ってそれきり、何も教えてはくれませんでした。
それから50年、そのことはすっかり忘れていましたが、60歳を過ぎた最近になって、あの『ギャーテーギャーテー』と先生の優しい眼差しの記憶が、その時の不思議な感覚と共に蘇ってきたのです。」
このご主人は、後にその「ギャーテーギャーテー」が「すべての人々が心安らかに生きられますように」と願う言葉であることを知ったと言います。
敢えてその意味を子供たちに教えなかった先生の真意が、私にはわかる気がします。その「ギャーテーギャーテー」は、先生にとって、やがて自分の元を離れいつか独り立ちしていく子供たちへの励ましの言葉だったのだと思います。それはまるで転んだ我が子の膝を擦る母親のおまじないのような、深い愛情そのものだったと思うのです。
私がご主人に、「先生の『大丈夫、私はいつも見守っているよ。』という優しい思いが伝わってくるようですね。」と言うと、
「はい。確かに先生はいつも優しい表情で私たちを見ていてくれました。本当に有難いことです。」とおっしゃいました。
私たちは時間と場所を越えて、今も昔も人々の幸せを願ってきました。その見えない願いの力が積み重なって、今の私たちが生かされているのではないかと強く感じます。そのことをしっかり胸に刻み今を大切に生きたいものです。
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