私のおりますお寺では、毎月十七日の夜を観音様の縁日として皆さんにお集まりいただき、観音経というお経をよんでいます。
お経のしめくくりは、宮沢賢治さんの「アメニモマケズ」を声を合わせ、大きな声で朗読します。「アメニモマケズ」の中に、「あらゆることを自分を勘定に入れずに」の一文があることご存じでしょうか。私はいつもこの一文に来ると、道元禅師のお示し、「菩提心を起こすというはおのれ未だ渡らざるさきに一切衆生を渡さんと発願しいとなむなり。」を想うのです。「ほとけさまのお覚りに向かって修行をするのならば、まずは生きとし生けるものがみなお覚りに至ってもらおうと願う心を起こしなさい」と私は読み取っています。
もし私が道元禅師の仰るとおりに、そして宮沢賢治さんのように「自分を勘定に入れずに」、ほかの方のお役に立つこと、「善いこと」ができたとします。そうしたら次はどうしたら良いのでしょうか。
道元禅師はお弟子方にお示しされています。「世の人多くは善いことをしたときは多くの人に知られようとして誇り、逆に悪いことをしたら人に知られないように隠そうとします。しかし、行ったことの影響は残り続けていきますから結果はかならず将来に現れます。だから、善いことをしたのに自分が思ったように人が応えてくれないからといって、善いことをしても意味がない、と考えてしまうのは間違いです。」と。
私たちはもし人のために善いことができたなら、すぐにその場を離れましょう。人のために善いことができましたら、早くそのことを忘れてしまいましょう。
心がいつまでもそこに立ち止まっていますと、今度は「いかり」や「ねたみ」「うらみ」の感情が生まれてしまうかもしれません。
「善いこと」を行うのは自分のため、と思えば褒めていただく必要がありませんし、逆に褒められるのは恥ずかしいことだ、という思いを持ちましょう。そう心がけていれば穏やかに日々を過ごせることでしょう。
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