自衛隊の部隊の最少人数が何名か知っていますか
答えは二名です。
自衛官の行動は部隊行動が基本であり、休日も二名以上で行動しなければなりません。この最少人数のことを「バディ」と言います。わかりやすく言えば、「相棒」や「相方」ですが、関係性はもっと泥臭くなっていきます。特に前期新隊員教育隊でのベッドバディは、未だに忘れることができません。
私の教育隊では、二段ベッドが使用されておりベッドメイキングにも厳しい決まりがあります。上下の二人で協力し、朝の短い時間内に決まり通り美しくベッドメイキングしなければなりません。少しでもはみ出たり、曲がっていたりすれば、後々、どうなるかわかったもんじゃありません。自分のベッドも相棒のベッドも、同じように綺麗に美しく仕上げなければなりません。それだけでなく、夜中にうなされていれば起こしてあげたり、足がつれば治してあげたりもします。
こんな生活をしていると、一ヶ月も経たないうちに、お互いのことを助け合うのが当たり前で、何かしてあげたとも、してもらったとも思うことがなくなってきます。もうしばらくすると、息がぴったり合うようになり、短い時間でベッドが美しくなっていきます。ここまでくると、アイコンタクトもなしで、お互いのして欲しいことをして欲しいタイミングでできるようになります。自分がもう一人いるというか、二人で一つの生き物のようになっていきます。
このような生活を三ヶ月も過ごすと、前期教育隊の課程が修了し、後期教育隊が始まります。ここで勤務地が決められ、それぞれの駐屯地へ配属されることになります。私は、一人で鳥取の米子駐屯地に行くことになりました。別れの日、先にベッドバディが呼び出され、お互い涙ながらに「頑張れよ」「じゃあな」と短い挨拶を交わして見送ることになりました。バディの乗った車両が動き出すと、車両に引きちぎられるように、私の体から何かが抜け落ち、「ああ、一人になったんだな」と思い、また涙が溢れました。いつの間にかバディが私の中に入り込んでいて、一心同体になれていたのだと気づきました。そして、本当に辛く、厳しい訓練を乗り越えることができたのは、バディが居てくれたからだと気づかされました。
その後、自衛官を退官し、縁あって僧籍に入ることとなり、お経をあげる中、同事という言葉に出会いました。修証義に曰く、「同事というは不違なり、自にも不違なり、他にも不違なり」という一節を読んでいた時、バディと過ごした三ヶ月を懐かしい感情とともに思い出しました。お経の一節を経験したような感覚が沸き上がりました。
お経を自衛隊の経験で体感する、もう一度言います。
「同事というは不違なり、自にも不違なり、他にも不違なり」
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