私の口癖の一つに「しょうがないな」というのがあります。とても便利な言葉で、腹が立ったり、いやな気分になったときに一言つぶやくと、「まっ、いいか」と思えるようになります。
私が、この言葉を好きになったのは、江戸落語に出会ったことからです。江戸落語に出てくる登場人物は、皆口々に「しょうがねぇなぁ」とつぶやきます。隣の家から仏壇のご本尊様に五寸釘を打たれてしまっても、丁稚の小僧に上手くだまされても、亭主がお酒で酔いつぶれても、「しょうがねぇなぁ」の一言で許してしまう人たちにたくさん笑わせてもらいました。はじめの頃は、おもしろいなあ。ですんでいたのですが、自分の身の回りで起きたら「しょうがないな」ですませられるのか?と疑問に思いました。他人事だし、そもそもお話の中の出来事だから笑っていられるけど、果たしてどうなのか?そこで実際に何か自分に不都合があったとき「しょうがないな」と言ってみることにしました。兄弟喧嘩をしたとき、親に理不尽を感じたとき「俺の家族なんだからしょうがないな。」と呟くと、お互い様だったかな、どっちが良い悪いじゃないな。と思えるようになり、他人に対しても自分の伝え方が悪かったかな、言い方が悪かったかなと自然に思えるようになりました。しかし、落語の中の熊さんが八っつぁんに「しょうがねぇなぁ」と言うのとは、少し違うなとも感じていました。それは、「しょうがないな」の後に必ず反省をしていたのですが、熊さんと八っつぁんはただ笑っているのです。それぞれの失敗を良い悪いでもなく、許す許さないでも無く、ただ見て笑っているのです。おおらかな江戸の気風、粋と言ってしまえば簡単ですが、なかなかやってみると難しく、まだまだ腹を立てたり、反省したり、心から「しょうがないな」と言えることは少ないですが、これからも精進していきます。
終わりまで聞いていただいて、「しょうがねぇなぁ」と思ってもらえば幸いです。
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