曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)

曹洞宗 東海管区 教化センター(禅センター)
道元禅師
道元さまのお言葉

正法眼蔵現成公案より

 

 「諸法の仏法なる時節迷悟あり
   萬法ともにわれにあらざる時節まどいなく さとりなし」

 これは正法眼蔵現成公案の巻の言葉であります。ところで曹洞宗を中国から日本に伝えられ、永平寺をお開きになられた道元さまが、寛喜三年から建長五年にかけて、即ち道元さま三十二歳から五十四歳にいたる二十三年間にわたり弟子達に説かれた教えをまとめたものが正法眼蔵であります。それは全体で九十五巻から成っています。現成公案の巻はその中の一巻であります。そして以後このホームページでは正法眼蔵を中心に道元さまのお言葉を紹介させていただきます。

  さてこの言葉のあります「現成公案」の巻は仏教者にとって最も重要な「悟」について説かれた巻であります。そしてこの「諸法の仏法なる時節 すなわち迷悟あり」という言葉でありますが、諸法とは天地宇宙あらゆる存在のことを言います。それは生物も無生物も意味しています。もちろん人間も含まれます。

  次に「仏法なる時節」とはお釈迦さまが、お説きになられた教えにしたがって見るときという意味であります。お釈迦さまの教えとは天地万物があるがままに、少しも歪められることなく在るということであり、万物は因縁生起、緑にしたがって生じ滅するのであります。そこには偏りや固定的な実体などありません。そのような立場からものを見るならば「迷い」もあれば「悟」もあるのです。あるがままに見るのですから、それは当然のことであります。迷いとか悟りのみを例えにあげたのでありますが、天地万物ありとあらゆるものがそれぞれあるがままに存在意義を有しているのであります。柳は緑、花は紅で厳然としてあるのであります。

  曹洞宗では自然環境の保護をスローガンに掲げていますが、これもこの仏の教えに従った当然のスローガンです。人間は人間の都合のみで自然環境を勝手に破壊し、それをさも当然のことと思っている向きがあります。そのような奢った、偏った考えは決して正しくありません。その反動は必ずやって来るのです。天地自然の道理に従わないで人間のエゴで全てを解決しようとすれば、必ず破綻がやってきます。それに気づかない程愚かな人間であってはなりません。
 次に「萬法ともに、われにあらざる時節」とは諸法無我の境地を言うのであります。萬法とは諸法と同じ意味でありまして天地宇宙あらゆる存在を意味します。そして無我とは自性がないこと、つまり己の計らいが無いことであります。俺が俺がということは相手に対していう言葉であり、相手と自分とを区別対立していう言葉であります。

  お釈迦さまは天地万物絶対平等を説いておられます。自分勝手のエゴや欲を否定しておられます。曹洞宗が環境と同じく掲げているスローガンに「人権」「平和」の二つがあります。このどちらも現在世界的に問題になっていることでありますが、人権や平和が守られないのは、環境と同じく自他を対立的に見て、自分本意、自己中心的にものごとを考え行うからに他ありません。
 この世のあらゆるものは在るべくして在るのであり、決して無意味に在るのではありません。無我の境地で天地万物と接するならば、そこには自他の対立の念が無くなり、穏やかな仏の世界が開け、悟りの境地に至るのであります。道元さまは傘松道詠という詩に

 春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえて 冷しかりけり 

と詠われました。
  何の拘りもなく在るものが在るべきようにある。当り前のことがなかなか出来ないのが人間であります。しかし、常にこの心、仏さまのまごころで生きることを忘れてはなりません。

(合掌)

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